元旦の夜、僕はいつもより1本早い時間の電車で帰宅した。普段なら終電ギリギリまで作業をして、駅までダッシュをするのだが、もはやそんな気力も体力もなかった。ゆっくり歩いても間に合うように、1本早い電車に乗った。これで電車に乗り遅れてタクシーに乗ることもない。はずだった……。

 いや、電車には乗ることができた。ところが、あろうことか自宅最寄駅を寝過ごしたのだ。以前住んでいた辺りでようやく下車したが、もう上り電車はない。仕方なくタクシーに乗り込むことになった。

「この道を真っ直ぐでいいんでしょうか? 私、今日デビューなもんですから。すいません、よろしくお願いします」――冴えない頭でも一つ思うところがあった。運転手は決して若くはなかった。聞かずにおくべきだと判断したにも関わらず、なぜか聞いてしまった。「ああ、そうなんですか。それまでは何をなさっていたんですか?」余計なお世話だ……。

 運転手は建築会社の社長だった。不況で経営が苦しくなり「世話になった部下が多かったので、退職金を払えるうちに会社をたたんだ」という。しかし、運転手の声は落ち込みすぎてはいなかった。僕の職業、タクシーに乗った理由、建築業者の休みは長いこと、ガードマンのアルバイト経験がある僕はそれを知っていたこと、運転手もガードマンの経験があること……。真夜中の世田谷通りで僕と運転手は話を続けた。

 嫌なことを話させて、僕は謝るべきだった。でも、務めて明るく仕事をしようとしている運転手にそうすることは止めた。降りる際、僕は「僕みたいな若造が言うのは何ですけど、頑張っていきましょう」と言ってみた。きっと僕より頑張っている人に向かって。

「あ〜、ありがとうございます! なによりです!」――きっと、僕はまた人に迷惑をかけた。それでも、このタクシーに乗って良かったと思う。辛い時、しんどい時、僕は頑張らないといけない。

 道は真っ直ぐでいい。

<おまけ:今日のおススメ>
オレンジフィズ・ジンジャーエール。会社のサッカー担当Nさん曰く「チューペットの味」……。まあ、言われてみれば、そんな気もする。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索