海鮮三昧 【9月23日(金)】
 民宿の旦那はしきりに朝ごはんを食べていくようにと勧めてくれたが、こちらの事情で断った。今日は港で海鮮ものを食べまくりたいと考えていたのだ。行きが船だったので、帰りはバスで気仙沼駅へ。最初のターゲットは、フカヒレの姿煮。色々と迷った挙句、港にあった定食屋に決めた。最初に注文したのは“海のパイナップル”と呼ばれる「ホヤ」。本来は酢の物で食すのが普通のようだが、メニューにあった焼き物を頼んでみた。なかなか甘みがあるが、貝独特の匂いが強かった。

 お次は、フカヒレ丼。デカいフカヒレの姿煮が2枚ほど白飯に乗っているのを、レンゲでガッツリと頂く。たくさん食べるにはちょっと味が濃いが、そうそう食べる機会もないので2000円メニューを平らげた。これをほかの地域で食べたら、いくらになるのだろうか……。

 最後に、今回の旅で最も変わったものを食べた。「もうかの星」と呼ばれる、モウカザメの心臓である。レバー好きの僕にとっても、かなりアクの濃いもので、おそらくよほど新鮮な状態でなければ食べることができないのではないだろうか。時間を置いてしまうと、すぐにどす黒くなってしまいそうだ。氷が敷き詰められた皿に盛られたそのメニューは、刺身なのである。1つ食べる毎に、自分が動物であることを思い起こさせられる。この血生臭さは、実は嫌いなようで結構好きだ。精力が付くという表現もできるだろうが、何か獣になるようなゾクゾクする感じがたまらない。

 少しだけ野心を取り戻した後、僕は気仙沼を離れて石巻へと向かった。石巻では、軽く散歩をしただけなのだが、休日だけ観光案内をしているボランティアのおじさんと世間話をしてみたりした。楽天イーグルスができたおかげで、野球観戦による人や物の流通が盛んになった話だとか、市税を投入しているベガルタ仙台が、解任したベルデニック監督に多額の報奨を支払ったことで、市民は反感を覚えている話だとか。

 楽しくて貴重な時間を過ごし、僕の旅は食と雑談で成り立っているということをあらためて感じながら、いくつかの駅を越えて女川という町に移動した。ここは、気仙沼と同じくサンマの水揚げで有名な漁港の町だ。もちろん、目当てはサンマだ。気仙沼で寿司や刺身は食べたが、塩焼きを食べていないのは、ここで食べるためだ。港近くの定食屋で、迷わず「サンマの塩焼き定食」を注文する。脂がのっていて、全体的にとても甘い。普段なら、皮や肝の部分は食べないことが多いのだが、この脂と塩が潤滑油のように、それぞれの味を調和させるため、どこまで食べても旨い。まるで漫画で猫がくわえているもののように、皿には頭(それもかなり肉を突かれた状態)と中骨と尾っぽしか残らなかった。僕は定食を食べ終わった後、すぐさまサンマの塩焼きを単品で注文した。お姉さんは、ちょっと不思議がったが、ごく自然なことだった。

 女川でサンマを2尾平らげた頃には、すっかり日も落ち始めていた。今夜の宿は、ついに観光名所の松島。手にしたガイドブックによれば「四大観」なる観賞スポットがあるというので、すべて廻ってみようと考えた。ぐるりと松島湾を巡るためには、外湾に面した奥松島からスタートを切るのが良さそうだという判断で、一般的な観光者が泊まる区域とは別の場所に泊まった。海岸沿いの民宿に、客は僕しかいなかった。宿のおばちゃんは「ご飯食べた? ホタテの炊き込みご飯があるけど、食べる? お金は取らないからさ」と、なぜかタダ飯を食わせてくれた。ホタテの炊き込みご飯、メカブ茶(これがめちゃくちゃ美味い)、おまけにマスカットとババロアまででてきた。たっぷり食べたら、あとは寝るだけ。だだっ広い民宿に一人で泊まるというのは、ちょっと怖さもあるものだが、この一歩間違えば孤独感しかない一人旅を、いかに楽しんで帰るかが、僕という人間の力が試されるところである(少なくとも僕にとって)。

 テレビでは、ルビー・モレノの“波乱万丈の人生”なるものを取り上げていたが、僕はメカブ茶の味を思い出しながら、布団に潜り込んだ。

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