小田急線の登戸駅からJR南武線に乗って北上する。行き慣れた、しかし久々の道のりだ。府中本町の駅で下車し、駅から長い通路を進む。iPODならぬ携帯ラジオを持つ者や、カタカナと数字でできた表を熱心に見る者たちが、赤ペン先生になっていく通路である。ここを通るのは、どれぐらい久しいことなのか。もう覚えていない。とにかくスタンド改修工事の前だったことは確かだ。本来、府中の東京競馬場で行われる天皇賞・秋が船橋の中山競馬場で行われたのは、2002年。そうか、働き始めて以来、一度も来ていなかったのか。

 プロ野球日本シリーズの第2戦がどのような結果であろうと、明日の一面には武豊のコメントが載っているはずだ。そして、それよりも大きく、無敗クラシック3冠ホースの名が踊るだろう。競走馬の名前は「ディープインパクト」。名は体を表すとは、このことだ。

 3冠最後のレース「菊花賞」は、淀の京都競馬場で行われる。15時40分、府中競馬場の赤ペン先生たちは、もはや目の前のメインレースさえ上の空だった。大画面に、あるいは馬券売り場に設置された小さなモニタに注目する。これまでのレースとは違い、スタンド前を2度通るコースとなるため、ディープインパクトは1周目で気持ちを逸らせた。最後の直線で一気に相手を抜き去るタイプのディープインパクトにとって、それが決定的なスタミナロスになりかねないことは、競馬ファンならだれでも知っていることだ。僕がかつて来た時よりも広く大きくなったスタンドが、まるで目の前でレースが行われているかのようにどよめいた。
 横山典弘騎乗のアドマイヤジャパンがあわやの逃走劇を見せる中、「まずい、届かないのではないか」という思いをかき消すように、観衆はヒーローの名を叫び続けた。いつものキレはない。それでも1完歩ずつ伝説を刻んで行く。モニタに釘付けとなる光景は、おそらくすべての競馬場、場外馬券場で同じだっただろう。間もなく、ディープインパクトはアドマイヤジャパンを捉えて先頭へ。栄光のゴールを駆け抜け、“皇帝”シンボリルドルフ以来21年ぶりとなる快挙を成し遂げた。

 無敗3冠達成という衝撃。しかし、僕の中では以前よりも響かなかった。だがおそらく、反応が少し鈍いだけのことだろう。また緩やかに競馬の世界へ足を運びたくなっていく自分がいた。

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