「有馬記念、見に行きたいなあ」という友人が、周りに数人いる。今年は無敗三冠馬のディープインパクトも出走予定で、一層話題を呼ぶだろう。僕は学生時代に一度、有馬記念を観に行ったことがある。

 レース前夜、僕とミタケは東西線の行徳という駅に向かっていた。当日は飲み会があり、酒が飲めない僕は相当にグロッキーな状態で行徳駅に到着し、とりあえずトイレでリバースしておいた。行徳に向かったのは、小説を読んだり書いたりするのが好きだという、いかにも文学部にふさわしい友人カイチの家に泊まるためだった。

 カイチは実家住まいで、僕らが着くとご両親も迎えてくれた。そして、カイチのオヤジさんはいきなり言った。「君、実家は?」「京都です」「京都の人間がそんな頭をしちゃイカンだろう」「え?」

 僕の髪は硬く、少し短くするとツンツンとした格好になる。僕は小学校の5年生から、そんな性質を生かした髪型を愛用しているのだが、カイチのオヤジさんはニヤリと笑いながら「その髪型じゃダメだ」と言い始めた。どうやらカイチは、オヤジさんに僕の情報を相当吹き込んでいたらしく、ユーモアのあるオヤジさんは待っていましたとばかりに僕をからかっていたのだ。

 ぐったりしながらも、せっかく陽気に話しかけてくれているオヤジさんに悪いと思い、僕は眠りたい体にムチを打った。そして、たっぷりとオヤジさんとバカ話を楽しんだ。

 翌朝、中山競馬場に向かう準備をしていると、オヤジさんはカイチにこう言った。「おい、カイチ。何かなくなったものがないか確認しておけ」。

 盗ってへんわい!

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