本来なら出張から戻って仕事をする予定だったが、もはや体調面は最悪だった。それでも、帰京さえしてしまえばどうにかなる。ホテルからタクシーで大館駅へ移動し、そこから秋田駅行きの電車に乗ったのだが、ここで思わぬ戦いを強いられた。まず、電車が積雪で大幅に遅れてしまい、まったく動かない。あまりにも体調が悪いので、秋田で病院に行こうと考えていたのだが、その秋田になかなか着かない。

 車内は暖房が入っているのだが、寒気は収まらない。そして、ピークを超えると今度は熱くて仕方がなくなり「いくら暖房が効いていても、それじゃあ寒いだろう」というぐらいの胸元のはだけ具合になりつつ、意識を保とうとしたが、戦いに敗れた。座席に座って背もたれに寄りかかっているため、見た目には分からなかったのだろうが、もはや意識は朦朧。体を動かすことも喋ることもできないし、どういうわけか耳も聞こえない。これまで、貧血で倒れたことが何かあるが、その倒れる直前の状態になった。しかも、いつもと違って、その時間がとにかく長い。不安感がどんどん高まっていく恐怖があった。そして、いつの間にか意識を失った。初めに感覚が戻ったのは右手。かすかに寒さを感じた。そして、次第に視覚や聴覚が戻ってくる。「あー、助かった」と、体をあれこれ動かして大きな後遺症がないことを確認する。その時、額に手を当てると「ビチャ」と音がした。気が付くと、大きくはだけた胸元にも大量の汗が浮かんでいる。もはや「ベトベトする」程度ではなく、風呂から上がったばかりかと思うぐらいの水量で。

 どうにかこうにか秋田駅にたどり着き、まずは喫茶店で水分補給を行って体の様子を見たが、やはりこれから新幹線に乗る数時間で同じことが起きないかという不安は拭えなかった。観光案内所で駅から近い内科を紹介してもらい、診察を受けた。そこでは、点滴を打つはずだったのだが、打っていると終電がなくなってしまうため、とりあえず1日分の薬をもらうだけに留めた。

 病院と薬が嫌いな僕が診察を受けた一番の理由は「安心を買う」ためだ。すごく皮肉だ。でも、不安感が除かれると、体は極めて正常時に近い状態で動いてくれる。診断結果は思ったとおり「インフルエンザ」。不本意ながら、翌日に予定していた都内での取材は、代理者を立ててもらうように手配した。情けない気持ちと疲労感しかなかったが、秋田新幹線“こまち”に乗り、東京へ戻った。

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