トリノ冬季五輪が終わり、日本では「イナバウアー」という言葉が流行っている。フィギュアスケートの女子シングルで金メダルを獲得した荒川静香の得意技の名前である。本来、この技の定義は、滑る際の両足の置き方によるものだが、荒川はこの足の状態で大きく上体を反らせるため、「背中を反らせて滑るのがイナバウアー」と勘違いしている向きも多いという。

 時間が経つにつれて「イナバウアーとは何か」の説明がさまざまなところで見られるようになった。すると今度は「イナバウアーをしながら、上体を反らせるのは荒川のオリジナルの技とも言える」という見解から「オリジナルの技名が付けばいい」というような期待が湧き上がっている。しかし、技の名前と聞いて思い出すことがある。

 プロレスの世界では、技名は極めて自由である。「ブサイクへのひざ蹴り」やら「オレが田上だ」などという、ふざけたネーミングのものもある。さらに、同じ名前でも選手によって技の名前が変わってしまう。藤波辰爾がジャーマンスープレックスをすれば、それは「ドラゴンスープレックス」となる。狭い世界を楽しませるための、ちょっと変わった風習である。技の定義などあったものではない。その世界を知らない者にとっては、分かり辛いこと極まりないのである。

 技を改良しただけで別名にしてしまったら、技の名前はどんどん増えていくのではないか。五輪で採用されるほどの競技で分かり辛くなってしまうのは、避けた方がいい。

 また、個人的に思うことがある。オリジナル技で有名になった選手は、技の名前として名が残っていたりする。それはそれですごいことだが、“採点に関わりがないイナバウアー”を“こだわって”プログラムに組み込んだ荒川が見せた技は、やはり「イナバウアー」であろう。

 まさか「私が荒川だ」なんて名前を付けようと思う人はいないだろうけど、特に新しい技名は必要ないのではないだろうか。

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