電話に頼るのはやめて、記憶と想像力にかけて、JR新宿駅の東南口へ向かった。

 人違いをしまいかという不安は、FlagsビルのGAPの看板の下で吹き飛んだ。

 16年前、東京から福岡へ引っ越していく姿を見送った友達の面影は、確実にそこにあった。

 懐かし過ぎる野郎が、いた。顔を見てから「ああ、そうだ。そんなホクロがあったっけな」と思い出した。

 彼は、約2年間クラスメートだった。4年生の時の担任は「オヤジ」で5年の時は「イノシシ」だった。

 彼の家の前は、曲がり角だった。彼の家の駐車場で吠える犬の名は「コロ」だった。

 彼の母親は、よくおやつの後にジャスミンティーを入れてくれた。彼の妹は、可愛かった。

 ある土砂降りの昼下がり、僕は彼の父親に「タジマ」と呼ばれた。僕は、タジマではなかった。

 ある日の休み時間、僕は彼に殴られた。彼は「八つ当たりだ、この野郎」と偉そうに言った。

 ある授業の最中、大きく手を挙げた彼は、先生から指名されると「ハイ! ……分かりません」と答えた。

 僕が好きなコは、彼のことが好きだった。でも、それほど悔しくはなかった。いや、どうだったかな。

 新宿の天婦羅屋で、ビールを飲めない僕を、彼は笑った。彼の記憶の中で、僕は青と白のボーダーのポロシャツを着ていた。

 話してみると、隠すことが何もなかった。伝える必要のない話も話したくなった。申し訳ないぐらい、何か嬉しかった。

 16年会わなかったが、今日は楽しかったぜい。

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