冬の始まりに、屋根が騒ぐ。闇が退屈で、吐息は色をぼかす。髪がしっとりと重さを増し、幻想的な視界が拡がる。のれんを潜って光を浴び、腕を引いて音を消す。「いらっしゃいませ」と声がする。

 麺をすすり、スープを飲み、シナチクを噛む。割り箸に挟まれた“かき”を口の中で躍らせると、じゅわっと潮味が溢れる。硬さの存在しない歯ごたえを得る度、温かさに満たされる。

   かき塩ら〜めん

 意識を取り戻した瞳が文字を追う。確かめる。少しだけ水を飲んで、また確かめる。麺が重力に逆らい、存在証明の意思をなくしたスープが撥ね落ちる。のどが鳴る。

 冬の気配に隠れて、それほど長くもない時間が経つ。財布から文学者が一人消えた後、雨音は悔しそうに聞こえる。

コメント

nophoto
あび☆
2006年11月21日10:32

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財布から文学者が一人消えたって表現☆
きれてる 笑
年明けのぷち同窓会楽しみにしていやす。

hedgehog
hedgehog
2006年11月27日21:35

コメントさんきゅー。年明けにまた会おうぜい。

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