都営大江戸線の電車が汐留駅を発車する。時間は日付をまたぐ寸前。黒人の家族が車両に居る。男の子が二人。どこの言葉か分からない言語でさまざまに話す。

 大きな子どもは「ジュース買ってよ、約束したじゃん」と向かいの席に座っている父親らしき人物に不満をぶつけた。突然発せられた日本語に、聞き耳たちは少し驚いた。

 六本木駅で彼らの間にある通路は、20代と思しき女性3名によって埋められた。女性たちの視線は一様に黒い子どもへと向き、彼についての雑談を始める。楽しそうな表情には、暗号を共有する喜びが含まれている。

 彼女たちは口々に話す。
「あ、ボールペン落としてるじゃん。あ、気付いた、気付いた」
 彼女たちは気付かない。子どもは親らしき人物に、どこかの国の言葉で話しかける。彼女たちは得意げだ。

 日本語という、筒抜けの暗号が、明るくも、悲しい。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索