目の前に2人の男が後ろ向きに立っていた。ふと、さほど空いていない間を割って前へ出ると、小さな渦に巻き込まれた。狂乱の喧騒は、意識する間もなく体に馴染み、ベルトに巻き付けた緑のビニール袋は、渋谷の暗室で行方をくらませた。酒や灰にまみれたフロアで踊った探し物を拾い上げると、今度は手首に巻きつける。

「屋根裏」と呼ばれる地下室では、今まさにロックバンドのライブが行なわれている。一回り大きくなった渦は、邪魔と邪魔を相殺して爆発的に広がると、あっという間にステージをも巻き込んだ。当てもなく動き回る光を浴びて男は歌う。

「月影に揺れる 夜明けまで残りあと僅か 幾許もねぇ、幾許もねぇ、夜を駆け抜けて」

振り回されたビニール袋の中には、ひび割れたケースのCDが2枚入っている。新しいケースにしようとは思わないのは、記憶が最高のチューニングを施すからだ。プラスチックの破片を散りばめたワレモノは、一際良い声を奏でる。

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